緊急提言!ソーシャルディスタンス禁止

「やめてください」と申し上げるのは心苦しいのですが、私の立場からはどうしても言っておかねばなりません。このご時世を重々承知の上での提言です。

マクドナルドとかアウディとか

最初に事の発端を知ったのは、周囲の人間との雑談の中でした。「マックとかアウディのロゴマーク覚えてる?」と聞かれたのです。「覚えてるよ、お山が二つとか、輪っかがつながっているみたいなやつでしょ。」と。「そうそう、あれらが最近は離れているんだよ。」と教えてもらったのです。なるほど~、みんないろいろと考えるもんだなとごくごく普通に受け止めたのでした。

朝日新聞の「天声人語」が……

ある朝のことでした。朝日新聞を読んでいたところ、ユーモアたっぷりの「天声人語」に出合いました。「ソーシャルディスタンシング」と題された4月21日付天声人語のことです。

マクドナルドのロゴについて触れていたので、ああアレのことねと見えなくてもわかっている感たっぷりで楽しく読みました。

当欄も本日は、文字間を広げた題字に替えてみた。

ということで、その様子は残念ながら見えない私にはさっぱりわからなかったのですが、見える家人に代わりに見てもらって題字を解説してもらいました。知人とも「今日の天声人語おもしろいね」と話題にしたのでよく覚えています。

だんだんとエスカレートしているようで……

ところが、このところ、そのソーシャルディスタンスアピールがだんだんとエスカレートしているようなのです。私自身には今のところ実害がないので詳細はわかりません。聞くところによると、社名にスペースが入るなどして検索に影響が出るなどの不具合があるとか。それはそうでしょう。

我々が必要とする重要な文章にことごとくスペースが入るなどということは、まずないと思いますが、「スペース」恐怖症の私ですので、心穏やかではいられません。

スペースの挿入はほどほどにしておいてください

お願いです。スペースの挿入はほどほどにしておいてください。

私たちのような視覚障害者は、音声ブラウザでテキストを読み上げて情報を得ています。単語の間にスペースがありますと、単語として認識されないことがあり、正しく文章を読むことができなくなります。

アピールの気持ち、ユーモアの表現、私は結構好きです。殺伐としてどうする?といつも思っています。けれど、害があってはよくありません。そこのところをよろしくお願いしたく、緊急の提言となりました。

「代替テキスト」と「単語内のスペース」は二大巨塔なんですわ

Webアクセシビリティの世界では、「代替テキスト」と「単語内のスペース」が二大巨塔と言ってよいほど重要ポイントと感じています。創業当時はこの2つを言い続けるのが主な仕事だったくらいです。

そこで、朝日新聞デジタルさん、コラムニストが粋なコラム書いたのですから、題字の図版に代替テキストを付けてやってくださいな。本文を読んで、どれどれ?と見えなくても見に行く視覚障害者も一人くらいいますから。

入力のジレンマ

とにかく、正しく書きたい!見えなくても見える以上に正しく。その思いが薄れつつあるこのごろのお話です。

視覚障害者あるある

Appleのアシスタント「Siri」が「尻」になってしまったり、絵文字の読み上げを「にっこり」などとそのまま書き記してしまったり、変換ミスと勘違いには苦しめられているというか、苦しみを感じないまま恥をさらし続けてしまうことが多々あります。

よくしたもので、合成音声に慣れてくるとイントネーションの違う同音異義語には気づくようになります。しかし、イントネーションが同じだとお手上げです。また、ひらがなで表記したいところが漢字になってしまったときなどは、変換のタイミングで処理できないと私の場合は永遠にそのままです。

入力の難しさがタブレットを遠ざけた

言い訳にしかなりませんが、文字入力の難しさは、私のタブレットへの道を遠く遠くしたと思います。

何らかの方法で文字入力ができないことには、Safariで検索することもメールやLINEで誰かに何かを伝えることもできません。タップとスワイプだけでどこまでいけるかもやってみましたが、当然限界がやってきました。

「だっかっら『音声入力』すりゃいいじゃん」

スクリーンキーボード、私の場合は画面の下にいわゆるローマ字キーが表示されるものをふわふわした足どりならぬ指どりで、しばらくはボツボツとテキストフィールドに打っていました。間違えては削除キーを探るのに一苦労です。肩も背中も頭も見えない目までくたくたです。

そんな姿を見かねて周囲の人間は言うのです。「だっかっら『音声入力』すりゃいいじゃん」と。

だけど嫌なわけです。意図しない言葉が入力されて訂正するのも嫌ならば、誤字や変換ミスが確認しきれない感じも嫌です。
変換のたびに慎重に入力してきた私にとって、そんなあいまいでいい加減な入力方法が許せるはずがありません。これまでの盲人生が否定されるくらいのシステム変更です。

だけど慣れちゃったのよ音声入力に

だけど、今は何の抵抗もなく音声入力をしています。振り返ると笑えてしまう程度のちっぽけなプライドです。

まずは、誤字を気にせず入力することにしました。なぜならLINEの「既読」や返信のスピードに、私の入力スタイルでは追いつかなかったからです。人々は文字でも口頭会話くらいのスピードでやりとりをしていたのですね。驚きました。

そのうちに、音声入力したときの認識は、私が思っていたよりも正確にしてくれるのだということに気づきました。私も正しく認識してもらえるような文章を考えますが、それにしても相当正しく文字起こし?をしてくれます。

そして、初めて取り組むその瞬間というのは、どうしても「そのうち慣れる」ということを忘れがちなもので、例にもれず慣れてきたのです。いつまでも意図しない入力や変換ミスが続くわけではありません。入力中にカーソルを移動させることも、その文字を読み上げさせることも、その文字を削除することも、正しい変換候補から選択することもちゃあんとできるようになって、スピードも上がって、肩も背中も頭も目もくたくたなままではないのです。

テレワークとかリモートワークとか

この度は、返信のスピードに迫られて文字の音声入力を習得したところです。

新型コロナウィルス感染拡大防止のために出された緊急事態宣言を受けて、あらゆる職業や分野でテレワークやリモートワークが行われています。これらのことと私の音声入力習得はとくにかかわりがあるわけではありませんが、テレビやラジオの番組にリモート出演する人々の様子を聞いていて、こうした変化にスマートに対応できるといいなあと感じました。

そういう意味では、ちっぽけなプライドを乗り越えて?新しいことにチャレンジしてみたことは、変化の世の中を何とか生きていく勇気になることはなったような気がします。