改正障害者差別解消法を正しく知ろう

2024年3月1日 掲載

2024年4月から改正障害者差別解消法が施行されます。ウェブアクセシビリティの障害者差別解消法における位置づけを正しく理解しましょう。

障害者差別解消法の改正のポイント

障害者差別解消法では、大きく分けて2つのことが求められています。一つは「不当な差別的取扱い」の禁止。もう一つは「合理的配慮」の提供です。

これまでもこれからも、行政機関は両者とも義務ですが、事業者はこれまで努力義務だった「合理的配慮」の提供が義務になります。これが今回の改正の重要なポイントです。

にわかに騒ぎ出したウェブアクセシビリティ業界

事業者における「合理的配慮」の提供の義務化に伴い、事業者もいろいろと配慮をしないと違法だということでざわついているようです。私が携わっているウェブアクセシビリティの業界もざわざわしています。

業界がざわざわしたおかげで見えない私の情報インフラが整うのはありがたいけれど、法律の解釈を間違えてそうなることでは心苦しいので、正しい解釈を説明しておきます。

ウェブアクセシビリティは「環境の整備」に位置づけられています

障害者差別解消法の第5条をご覧ください。「合理的配慮」の中に「環境の整備」が定義されていることがわかります。

(社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)
第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html

ウェブアクセシビリティは、この「環境の整備」に位置づけられるのだそうです。以下は政府広報オンラインからの引用です。

また、その合理的配慮を的確に行うため、環境の整備が努力義務となっており、ウェブサイトの場合では JIS X 8341-3:2016に準拠したウェブサイトを作り、ウェブアクセシビリティを確保することがこれに当たります。

ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説! | 政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202310/2.html

「環境の整備」は努力義務のままです

上に引用した文中にもあるように、「環境の整備」については努力義務のままです。ですから、「合理的配慮」の提供が義務化されたからといって、「ウェブアクセシビリティをすぐさま絶対に整えなければいけない」というセールストークを受け入れる必要はありません。

毎日新聞の電子版を例に考えてみよう

最近、見えない私が「合理的配慮」の提供を求めたかった例があります。ちょうどいい機会ですのでこれを例示して考えてみましょう。

毎日新聞を購読すると「ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版」が読めるらしい

最近、「毎日新聞デジタル」を購読すると「ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版」が読めるらしいことを知りました。

ウォール・ストリート・ジャーナル | 毎日新聞

歓喜して様子を探ってみましたが、音声では記事を読むことができなさそうです。「残り○○文字」とあるけれど、残りも何も冒頭が聞こえてきません。多分画像というか、紙面ビューアーのようなものでの提供なのでしょう。ものすごくがっかりしました。

毎日新聞デジタルの掲載の連載記事「ウォール・ストリート・ジャーナル」ページのスクリーンショット。記事タイトル「AIバブル?過去を振り返るとそう単純ではない」や掲載日時等が文字で記されているように見える。

もしも私が「合理的配慮」の提供を求めたら

このことについて、視覚障害者の私が2024年4月以降に毎日新聞に「合理的配慮」の提供を求めたとします。改正障害者差別解消法に照らせば、毎日新聞は私の申し出に耳を傾け、負担が大きすぎない範囲で対応しなければならないといったところでしょうか。法的に求められていることはこれくらいだと思います。

もしも私の申し出をきっかけとして「ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版」のすべてが音声読み上げに対応したとしたら、それは障害者差別解消法で言うところの「環境の整備」における努力義務を果たしてくださったということになるのだと思います。

ちなみにこのコラムは「申し出」ではありません

「毎日新聞デジタル」には例になっていただきありがとうございました。多少リアリティがないとわかりにくいので取り上げさせていただきました。

毎日新聞の名誉のために申し添えると、毎日新聞は、新聞紙面にある内容を紙面ビューアーだけではなくテキストでも提供してくださっていると思います。朝日新聞も、おそらくですが日経新聞もそのような対応をしてくださっています。紙面ビューアーだけでの提供という新聞もあって、見えない私にはお手上げという場合があります。それを思うとありがたい限りです。

そして、もっと毎日新聞の名誉のために言うならば、「これは契約しても音で読めなさそうだ」とわからせてくれていることもすばらしい。とりあえず購読を見合わせることができますから。でも、いつか、楽しみにしています。