2022年11月1日 掲載
これまで何度もお伝えしている通り、音声化ソフトや機能はウェブサイトの情報をそれは見事に読み上げてくれます。特に、アクセシビリティ対応を強く求められている公的機関のウェブサイトは、配慮が行き届いています。しかし、配慮してはみたものの、視覚障害者にとっては残念に感じられるところを見つけました。
それはフロアマップ。今回は、そのフロアマップを取り上げて論じてみようと思います。
がんばりかけていたフロアマップ
地図やフロアマップは、視覚障害者の私がウェブサイトの中で敬遠するものの一つです。ここを音声で表現するのは難しいだろうと感じるからです。ですが、がんばりかけているフロアマップを見かけました。
ある庁舎のフロアマップを見ていた時のことです。フロアマップ内に示されていると思われるアイコンの説明が、やけに丁寧だったのです。「示されていると思われる」という表現をしたことからもわかるように、示されているかどうかは見えないこちらにはわかりません。しかし、アイコンの説明をしてくださっているのですから、どこかにアイコンはついているのでしょう。
多目的トイレはあるんかい?ないんかい?
これをどうとるかです。そのアイコンが何を示すかは、見える見えないにかかわらず説明する必要があったのかもしれません。たとえば、アイコンの解釈が難しい人にとってはアクセシブルな内容です。けれども見えないこちらにしてみれば、どうやらあるらしい、でもあるかどうかはわからないというもどかしい状況になります。
実際、そこに紹介されているアイコンは、そのフロアにあったりなかったりするのだそうです。たとえば、多目的トイレは庁舎内にあるらしいけれど、どの階にあるかは見えないこちらには伝わらないという状況です。
ウェブアクセシビリティの基本は「等価な情報」
さて、このような場合どのように表現しておくことが正解でしょうか。ウェブアクセシビリティに関する細かいルールを知らなかったとしても、基本は「等価な情報」です。誰にとっても等価な情報を与えられているだろうかと想像をめぐらせると、正解に近づくことができます。
フロアマップにおける等価な情報とは何でしょうか。おそらく、どこに、なにがあるかがわかることでしょう。このたびの例を視覚障害者に当てはめると、あるらしいものがわかるだけで、どこにあるかはもちろん、何があるか、本当にあるかどうかはわかりません。
「等価な情報」は過剰にもなる
ここで、これはよくない表現だから、見えない人にもちゃんとわかるように表現しようと努力してくださることは大変ありがたいことです。では、どうしますか。
テキスト化すれば読み上げるらしいからテキストで説明しておこうと思いませんか。思うと思うのです。
けれど、マップの内容を言葉で説明することは、マップで見せることに比べると膨大な量になると想像できますし、それをいろいろな人が閲覧するウェブページにどのように載せておくべきかということになるとさらに難題です。
過剰な場合は目的に立ち戻れ
基本は等価な情報と言いましたが、このような場合、次に考えることは目的です。フロアマップの目的は何かということです。どこに、何があるかがわかるということでした。でも、本当にそうでしょうか。
見えないこちらは、どこに、何があるかを本当に知りたいのでしょうか。
私は、特にここでは自治体のウェブサイトを念頭にお話ししていますので、閲覧者はおそらくどこに、何があるかがわかって、そこを訪れたいのではないかと思うのです。目的は、庁舎の目的の場所や目的の課を訪れたいということではないかと思います。
そうしますと、視覚障害者に、このウェブページ上で見える人と等価の情報を与えるという意味も変わってきます。どこに、何があるかを正確に伝えるということよりも、どの階に何があるか、たとえばこの階に福祉課が存在するか、多目的トイレがあるかさえ正確に伝えられればいいのかもしれません。
ウェブアクセシビリティを補う程度の親切
見える人にはフロア内の位置までわかって、見えない人には位置まではわからなかったとしても、たとえば本庁舎の2階に目的の課があることがわかれば、見えないこちらは目的にぐっと近づくことができます。階段を登り切った先やエスカレーターを降りた先やエレベーターを降りた先の道順などわからなくても、本庁舎の2階に降り立てれば目的の課にはたどり着けます。世の中、それくらいには親切です。
反対に、ウェブページを閲覧している時点で、そのフロアの道順やつくりを懇切丁寧にテキストで説明されたところで理解しきれないと思います。そんな風にウェブページにこてこてのエネルギーをかけ、訪れるこちらもめちゃめちゃエネルギーをかけて理解せずとも、とりあえず安全に2階まで来てね、そこからは誰か案内しますからという方が現実的です。
ウェブアクセシビリティのための魔法の手順
ウェブアクセシビリティのルールに基づきウェブページを作成すれば、おおむねうまいことできます。
もしもルールがわからなかったら、これは誰にとっても等価な情報だろうかと想像を巡らせればそれでもそこそこうまくできます。そうした結果、なんだか過剰だなと感じたときは、この情報は何を目的に必要だろうかと考えてみてください。
そうすると、本当の意味でアクセシブルなウェブサイトになるでしょう。