自治体サイトWebアクセシビリティ調査2022を終えて

2022年9月1日 掲載

自治体サイトWebアクセシビリティ調査2022の発表です。
おかげさまで、記念すべき20回目の調査結果を発表することができました。今年も47都道府県・20政令指定都市の公式Webサイトを訪問させていただき、調査員として多くの学びが得られたことを感謝申しあげます。

自治体サイトWebアクセシビリティ調査2022

今年2022年のテーマは、意表をついて昨年2021年と同じものにしました。「『みんなの公共サイト運用ガイドライン』への対応」でございます。昨年の調査結果と比べて1年後の各自治体のWebサイトにはどんな変化があったのか、ご興味がありましたら今年の調査結果をぜひご覧ください。

毎年このコラムでは、調査員の私が視覚障害者の立場で感じたことを書いています。今年もそれに習い、一つ二つお話したいと思います。

コロナ禍も3年目を迎えました。自治体サイトに「コロナ」という文字が登場して3回目の調査をしたことになります。「ステイホーム」という言葉は懐かしくなってまいりましたが、「感染状況」「PCR」「ワクチン」あたりはまだまだ現行の響きです。各自治体の「感染状況」を覗いてみたなら、真っ盛りといった印象ですらあります。

ですが、真っ盛りと言っても3年目です。そのときどきで自治体としての対処が変わるにしても、そろそろウィズコロナを踏まえた分類や提示ができるといいと感じました。

たとえば横浜市。

「感染の急拡大で医療機関が大変込み合っています」などと記された横浜市トップページの掲載画像
カルーセルパネルに置かれた画像です。代替テキストは「検査キットや無料検査で陽性と判明し重症化リスクが低い方はを自主療養を選択できます」と設定されています。
画像:「新型コロナ 自主療養届出制度について」の見出しがついたページのスクリーンショット
リンク先ページの様子です

感染爆発の現状を踏まえた、今ならではの制度のお知らせだということは伝わります。でも、伝える側があわててはいけません。この場合は、リンクラベルと遷移先のページのタイトルを一致させるのが正解です。遷移先のページにそれらしいタイトルがありましたので、それをそのままリンクラベルにしてはいかがでしょう。そのうえで、落ち着いてメッセージを添えると親切だと思います。

このように、今ならではの急ぎのメッセージが必要な場合があるかもしれませんが、どんなときもまず一つ目に知りたいことは、「コロナっぽいけれどどうしよう」という疑問や不安への答えだと思います。これをうまくくんでバシッと決めている北九州市の例です。

北九州市ホームページ「緊急情報」のスクリーンショット

新型コロナウイルス感染症の陽性者が急増しています。

  1. 発熱等により検査をご希望の方は、「発熱時の診療・検査」をご覧ください。
  2. 陽性と診断された方には、保健所から順次ご連絡しています。「陽性と診断された方へ」をご覧ください。
  3. 濃厚接触者となった方へ、保健所からの連絡は行っておりません。「濃厚接触者となった方へ」をご覧ください。
北九州市 https://www.city.kitakyushu.lg.jp/

冒頭の3行だけで疑問や不安を片づけてしまうこの潔さ。
これでいいような気がします。

あとは、ワクチン接種と事業者等への各種支援情報でしょうか。こちらの情報がほしい人は、とりあえず今発熱やらのどの痛みやらせきやらはありませんので、多少わかりにくくてもじっくり閲覧してくださると思うのです。まずは、当事者に必要な情報を届けるということが重要だと思います。

それが3行で済むんですよというお話でした。

次は、アクセシビリティっぽいけれどくだらなくもある私個人の調査の発表です。自治体サイトにも一般のサイトにも多く見られる、本文の頭出しのためのリンクボタン。調査対象サイトのトップページにあるこのリンクボタンをクリックすると、何をどれだけ読み飛ばしてくれるかをテキストで別ページに書き出してみました。

【別表】調査対象サイトのスキップリンクと読み飛ばし範囲

ちなみに、JIS X 8341-3:2016では、

2.4.1 ブロックスキップの達成基準
複数のウェブページ上で繰り返されているコンテンツのブロックをスキップするメカニズムが利用できる(レベル A)。

JIS X 8341-3:2016 (ISO/IEC 40500:2012) 日本規格協会 発行

と規定され、それを達成する方法の一つとして、

G1: メインコンテンツエリアへ直接移動するリンクを各ページの先頭に追加する

WCAG 2.0 達成方法集|https://waic.jp/docs/WCAG-TECHS/G1

が挙げられています。
私個人としてはなくていいという考えです。

私が見えなくなった20年くらい前は、視覚障害者にとって魔法のボタンでした。どのページにも共通する部分を毎回聞かずに済む画期的な仕掛けでした。今はWebサイトが成熟し、多くのページに正しい見出しがついています。我々閲覧者もその設計を頼りに情報を得るようになってきていますので、魔法は解けたという印象です。スマートフォンなどのスクロールの軽減には利用されているかもしれません。

さて、その読み飛ばしている部分のお話です。何をどれだけよみとばそうとそこに他意はありません。クリックすると設計上の本文が頭出しされることは納得できます。しかし、好奇心で読み飛ばした部分をさかのぼってみると、これだけですかと言いたくなるくらいわずかなことがあっておもしろいのです。

おそらく、CMSなどにあらかじめ組み込まれている機能なのでしょう。入力した文書構造をもとに本文の頭にページ内リンクさせているものと思われます。しかし、私はこのわずかなスキップを体験するたびに、ひょっとしたら自治体の意図しない読み飛ばし範囲になっているのではないかと心配し続けてきました。いつか言おう、いつか言おうと思い続けてこのたび、20回目の調査を記念して裏調査の発表です。

別表には、私の音声ブラウザの環境で読み飛ばした部分をテキストで書き出しました。

1行目が読み飛ばすためのリンクボタン、最終行が本文の頭です。大変見にくいであろうことは想像できますが、逆に言えば、音声ブラウザではこのように読み上げられているということもわかるとおもいます。そんなことも合わせてご覧いただけると幸いです。

文中でもふれました通り、コロナ禍においては3回目の調査でした。また、毎年9月1日に発表をすることから、自然と夏場の調査をすることになります。ここ数年は豪雨の被害が多く、とりわけ今年は各地で長雨となりました。感染や災害にかかわる情報発信に苦慮されているであろう自治体のみなさまに、心からのねぎらいと応援の気持ちを届けたいと思います。

情報発信についてお困りのときは、ぜひお問い合わせください。