2025年9月1日 掲載
お待たせしました。通算23回目を迎えた『自治体サイトWebアクセシビリティ調査2025』の発表です。今回のテーマは「防災・災害情報とアクセシビリティ」。なんと、おととしの調査後のこのコラムの拡大版となり、私の自治体サイトに対する懸念がめずらしく社内コンペを通りまして、当社の看板調査のテーマに採用されました。
毎年、調査後に雑感をしたためているこのコラム。全盲の視覚障害者の調査員としての立場で感じたことを書いています。今年のコラムの内容が未来の調査のテーマになることもあるということで、心して読んでいただけると幸いです。
2024年の雑感と2025年の雑感は同じ
調査をしながらコラムにしたためる内容を脳内に浮かべています。あらかじめいくつかの論点に絞って執筆の構想を練ったのち、昨年、一昨年とさかのぼって自分のコラムを再読してみるのですが、今年は驚きました。昨年とまったく同じことを書こうとしていたのです。
同時に、これが当事者に読まれていないことが明らかになり、落ち込みが深い2025年の夏です。「2025年の雑感はこちら」と2024年の調査後のコラムをそのまま貼り付けたい衝動を抑え、がんばって別の切り口で執筆を試みようと思います。
代替テキスト
いつだって、一言目には代替テキストのことを言いたいわけであって、手を変え品を変え長年に渡り言い続けているこのコラム。一年たってもほとんどというかなんの変化もない自治体サイトを目の当たりにし、さすがにあきらめようと思ったけれどまた次の手を思いついたので続けます。
法令遵守から代替テキストを考える
今年の調査で見つけたよくない代替テキストの事例に、代表メールアドレスを画像にしているものをみつけました。この画像には「○○県庁代表メールアドレスの画像」という代替テキストがついています。迷惑メールを排除するための対策と思われますが、同時に私(音声で情報を得ている全盲の視覚障害者)も排除されていることを、このコラムの読者はここで認識しておいてください。
私は、自治体サイトや各種SNSの制作、運用、修正を自治体の職員のみなさんといっしょにする中で、職員のみなさんは情報を書きすぎる傾向にあると感じています。「これは国が公式に出している情報があるのでそちらに促してはどうですか」とか、「そこまでかかなくてもわかりますしそんなに書いても読んでもらえませんよ」とか、さまざまなコメントをしますが、受け入れられたりそうでもなかったりすぐ戻ったりしてしまいます。
そうしてしまうのには原因があるようで、どうやら書いておかないと不安らしいのです。こういうときの職員のみなさんの頭の中には、「法令遵守」というキーワードが常にあるようです。このことは別に悪くない、むしろ使えます。「こんなにいっぱい書いてしまってルールや状況が変わったらどうするのですか、見直しを怠って間違った情報がサイト上に残ったままになっているとそれこそ法令遵守にはなりませんよ」というようなことをお伝えし、納得いただくことがたまにあります。
さて、冒頭で紹介した代表メールアドレスの画像の代替テキストに話を戻します。迷惑メールは排除できるかもしれない、しかし同時に私(音声で情報を得ている全盲の視覚障害者)も排除されていたのでした。これは明確に法令違反に該当します。少なくとも迷惑メールの排除よりは高次であると思います。だからという言い方は強すぎるかもしれませんが、「代替テキスト一つで職員のみなさんが気にしている法令遵守を犯す可能性があるのですよ」ということをお伝えして、代替テキストの重要性を訴えることにしました。
断捨離から代替テキストを考える
トップページだけでいいので、ページにある画像のすべての代替テキストを見直してみませんか。バナーもアイコンも写真もイラストも全部。その画像が我が自治体に本当に必要かどうかを検討し、本当に必要なものに適切な代替テキストを付けてみてください。
「断捨離」や「こんまりメソッド」が世の中にどれくらい浸透しているかはわかりませんが、いわゆる「ときめくかときめかないか」で画像を一つ一つ検討してみてはどうかと思うのです。自治体の職員のみなさんは公務員です。全体の奉仕者です。自分の好みか好みでないかではなく、自治体として必要かそうでないかがちゃんとわかる素質があるから公務員なのです。自信を持ってときめくかときめかないかをやってみてください。
やってみると、これはうちの自治体に必要ないなとか、今はもういらなくなったとか、内容的に重複しているなとか、いろいろと見えてくることがあると思います。いらないものは思い切って切り捨て、それぞれの自治体にとって大切なコンテンツを大切に残せばいいと思います。
大体のところ自治体サイトはコンテンツが多すぎるのです。多いものを取り扱おうとすれば煩雑になるのは世の常ですので、適切に取り扱える量に抑えておくことは一つの対策だと思います。それを「公務員的ときめき」でやってみてほしい。画像から迫ってみてはどうかという提案です。
そのうえで、このバナーが、このアイコンが、この写真やイラストが、場合によっては動画の埋め込みが必要となれば、それはそこに堂々と表示してください。表示をするときに「それらの画像をひっくり返して裏に正式名称を書いといてよ」というのが、私があの手この手で伝えようとしている代替テキストへの呼びかけであります。
新着情報欄
都道府県や政令指定都市のサイトは巨大です。この巨大なサイトにどうやって愛着を抱いてもらうか、その方策の一つに「変化」があると思います。その変化を手っ取り早く表現できるエリアとして「新着情報」を取り上げ、解説してみようと思います。
事例から見る新着情報の要素
自治体サイトのトップページにある「新着情報」のエリアに表示されるものの表記について、各自治体はルールを設けているのでしょうか。末端ページがアップデートされると自動的に表示される仕組みなのでしょうか。
すべての自治体サイトに「新着情報欄」が表示されているわけではありませんが、今回の調査で確認できた事例をもとに、新着情報の内容を要素に分けてみると次のようになります。
- 掲載日
- タイトル
- ジャンル
- 注目度
- 担当組織名
「掲載日」と「タイトル」の解説は必要ないでしょう。この2つの要素は「新着情報」に並べるときには必須です。ただし、タイトルの表記においては気をつけたいところがあるので後述します。
「ジャンル」は近年付記されることが多くなっています。おもに、住民向けか業者向けかの違いを示したり、イベントや募集情報を区別したりする目的があるようです。ジャンルの別が付記されるだけではなく、タブの切り替えで表示するサイトも増えていて、そのアクセスのしやすさはこれからも継続して見ていく予定です。
「注目度」は私が名付けました。イベントや職員採用・入札関連情報にその期限や日程、人数などの具体的情報を付記するものです。その情報の対象者に情報の取り違えがないように、また行動の先延ばしも防げるという点で工夫されていると思いました。
「担当組織名」は、以前はうっとうしく感じていました。サイト訪問者にとって自治体の組織名やその別はなじまないと感じていたからです。しかし、その記事の責任のありかや問い合わせ先の明確さという点で必要性を再認識しています。ですから付記していただけるといいと思ってはいますが、舌を噛みそうなほど複雑なものや妙に長い組織名は避けてもらえるとありがたいです。
タイトルには「主題」と「文書の性格」の両方を
後述しますと予告しておいた「タイトル」の表記について書きます。
まずは「新着情報」に並べたときの記事タイトルと遷移先のページタイトルが一致することを心がけてください。これが基本中の基本です。
そのうえでその記事がどう新着なのかを伝えなければなりません。そのためには、末端ページを作成するときから、このページがサイト上、またはSNSや検索結果のどこに組み込まれ、どのように表示されるかを想定する必要があります。
具体的には、「…について」としないことです。そして「主題」と「文書の性格」の両方を盛り込むようにしましょう。
自治体サイトを直接運用する立場にあるこのコラムの読者は、どこかで聞いた言葉だなと思われたと思います。そうです。これは『「公用文作成の考え方」解説』にある内容なのです。ウェブアクセシビリティの専門家に指南されるまでもなくご承知のことでしょう。ですが、あまりにもできていないので取り上げています。
「…について」は乱立しています。絶対に使ってはいけないわけではありませんが、「主題」と「文書の性格」を意識すると「…について」の使用率は下がるものと思われます。「主題」はそれを書かないと始まらないので必ず書かれています。しかし「文書の性格」が欠けていることは実に多い。タイトルを読み返して「主題がどうした?」と突っ込みたくなったときは「文書の性格」が欠けているということです。主題をどのように伝えたいのかのメッセージを必ず添えてやってください。
来年も素敵な出会いがありますように
今年は「代替テキスト」と「新着情報」を解説しました。コラムで取り扱うに当たり、調査後にすべての自治体サイトの「新着情報」を読みまくったわけですが楽しかったですよ。実によくできた、対象者を気遣ってああでもないこうでもないと試行錯誤して、タイトルに盛り込む文言のルールを作ったのだろうなあとうかがえる自治体がありまして、時間を忘れて読み続けてしまいました。
こうなると、もう職人技というか、芸術家ですね。調査をしながらこうした丁寧な心遣いに出会うと感謝の気持ちでいっぱいになります。来年も素敵な出会いがありますように。自治体サイトを運営するすべてのみなさんにエールを送りつつ、2025年の調査を終わりにします。