2024年9月1日 掲載
今年も行いました、自治体サイトWebアクセシビリティ調査。2024年の今年で22回目を数えます。今年のテーマは「JIS試験、正しく実施できていますか」です。
47都道府県・20政令指定都市が公表している「JIS試験結果」を調査させていただきました。一言で言うと不正確さが目立ちます。そもそも規定どおりの試験が行われていないことや、試験結果を適切に表明していないこともあります。このたびの自治体サイトWebアクセシビリティ調査では、各自治体が「JIS試験」を行っているか否かに加え、各自治体が公開している試験結果内での不整合な部分をつまびらかにしています。何のための「JIS試験」なのかを振り返る機会にしていただけると幸いです。
このコラムでは、自治体サイトWebアクセシビリティ調査の調査員である全盲の私が、調査をしながら感じたことを書いています。本体の調査とはまた違った切り口で自治体サイトに迫ります。
もう一度、代替テキストを見直しましょう
私は、ウェブアクセシビリティの確保のために、以下の3つのことをお願いしています。
- 画像に代替テキストをつけること
- 単語内のスペースをなくすこと
- 「こちら」のみへのリンク設定をやめること
どれも徐々に良くなる中で、代替テキストをつけることは特に改善されたと感じていました。自治体サイトに関してはほぼ整ったと言っていいときがあったくらいです。
ところがです。このところはつければいいと勘違いしていませんか。つければいいのではありません。つけるべきところに正しくつける必要があるのです。今回は代替テキストの正しいつけ方の解説から始めたいと思います。
その画像やアイコンは本当に知らせなければなりませんか?
まずは、代替テキストをつけようとしているその画像やアイコンに、代替テキストが必要かどうかを考えましょう。なぜこんなことを言うかというと、ページ内にあるすべての画像とアイコンに代替テキストをつけまくっている自治体が散見されるからです。
カテゴリ名の先頭にあるアイコンのすべてに「ほにゃららの画像」「ほにゃららのイメージ図」「ほにゃららのアイコン」「ほにゃららのサムネイル」といった具合です。アイコンのあとには本物の(?)「ほにゃらら」が存在しますので、私の耳にはこう聞こえます。
「ほにゃらら1のアイコン」
「ほにゃらら1」
「ほやらら2のアイコン」
「ほにゃらら2」……
こんなふうに伝える必要があるでしょうか。「いやいや伝える必要あるでしょ、そこにアイコンがあることを伝えないと合理的配慮にならないでしょ」というような意見をお持ちだとしたら、私はそのアイコンがどんなアイコンであるかを伝える必要があると思います。
たとえばサイトのトップページに「知事の部屋」というリンクラベルがあったとして、その付近に知事の写真(画像)が存在するとします。この場合はそこに知事がいることを知らせた方が親切です。「笑顔の知事のバストアップの写真」とかね。知事がこっち向いて笑ってくれてるんだなと思うと、用はなくてもちょっとは開いてみる気になるというものです。
修正方法については次のとおりです。これはいらんなと感じたら代替テキストを「空」に設定してください。alt属性自体がないとファイル名が読み上げられてしまうので、あくまでもalt属性の「値」を「空」(alt=””)と設定することが大切です。表示する画像やアイコンのすべてに何らかの意図を含むようなイメージで取り組むと失敗がありません。
グローバルナビゲーションが聞こえてきませんよ
ちょっとびっくりしたことに、なんとグローバルナビゲーションに代替テキストがない自治体サイトを見つけました。リニューアルのタイミングを調べていませんが、1年以内にリニューアルをしていなければこれまでの調査でもそのことを聞き逃した可能性が高く、調査員としてはびっくりしている場合ではないと反省しています。
たとえ聞こえずとも、サイトの構造や内容の意味合いから気づかねばならない事象でした。過ぎてしまったことをとやかく言っても仕方がないので、該当の自治体はすぐに直してください。調査対象の自治体のウェブマスターは、自分のところでないことを祈りながら確かめてください。その結果、ほかにも私が聞き逃している重大な問題が見つかった場合は修正いただけると、来年以降の調査で私がびっくりしたり反省したりする事態が減ります。
地味に大切だと思う広告バナーの代替テキスト
広告バナーはサイトの訪問者には必ずしも歓迎されるものではないのかもしれませんが、自治体の収入源としては大切なのでしょうし、なによりも、広告主は対価を気にするところだと思います。
広告主は、バナー画像の表示方法や表示される位置はきっと気にしていると思います。けれど、見えない人や何らかの理由でバナーが表示されない人にどのように伝わっているかはご存じないでしょう。
広告バナーの場合も代替テキストのつけ方のルールはほかの画像と同じです。基本的には等価な情報を文字列にしてください。画像上にはキャッチコピーがあるのに代替テキストには会社名だけのものや、ひどいところではせっかく広告費を負担しているのに会社名すら伝えてもらえていない広告バナーがあることを私は知っています。
バナー画像は広告主側が用意することが多いと思われますが、代替テキストは誰がつけているのでしょうか。広告バナーの代替テキストを自治体側がつけているのだとしたら、広告主に失礼のない運用を心がけてください、失礼の範囲にとどまらず、詐欺に近い状況にもなりかねませんので気をつけましょう。
せっかくのホームページ、見られたいですよね
さてここからは、調査員が個人的に感じたことをお話します。今年は住民の視点でこのサイトに再び訪れたいかどうかを考えながら調査してみました。公式サイトと合わせてXの公式アカウントも覗いてみましたよ。
乗っかれるものには乗っかろう
個人的雑感なので本当に個人的なお話をしますが、私は大河ドラマを聴取しています。主人公の父親が“越前守”に抜擢され、主人公は父親の勤め先に滞在することになります。そこでウニを食べたり越前和紙に出会ったりしてとっても素敵なんですけど、そんなイメージで福井県のサイトを見ても『光る君へ』感はゼロでした。
また、「Yahoo!ニュース」にこんな記事がありました。
「虎に翼」ロケ地は微妙な反応…「イメージ悪くなる」はて?田舎民は腹黒い?(新潟日報) – Yahoo!ニュース
私は朝ドラ『虎に翼』は聴取していません。なので、新潟が舞台とは知りませんでした。そうかあ、新潟県は盛り上がっているかなと思って新潟県のサイトを覗いてみましたがこちらも『虎に翼』感はゼロでした。
NHKの大河や朝ドラが全体を代表する何かではありませんので、絶対に乗っかるべきとは言えませんが、せっかくだから乗っかればいいのにと思います。今、誰かが注目する何かが自分のところの行政区にある場合は、行政区として発信できる情報や紹介できる施設がないかに目を向けるくらいはしてもいいと思います。
ネガティブニュースのアンサーがない!
この夏もいろいろなニュースが流れました。地震に台風、相変わらずの感染症、個人的にはイルカに噛まれたり、登山中に亡くなったり、滝や湧き水で食中毒になったりしたらしいというニュースに驚きました。
イルカ(福井県)、登山(静岡県・山梨県・長野県)、食中毒(大分県・熊本県)のトップページを注意して眺めましたが、それらのニュースに関する何らかの反応は見当たりませんでした。山梨県が「富士登山」という小さなワードで富士登山についての一般的な情報を載せているくらいです。これで十分ではありますが。
地震と台風には騒ぐのに、事故や事象が地名入りで大々的に報じられていることには無反応というところが気になります。管轄外だとかまだ調査中とか理由はいろいろとあるのでしょうけれど、管轄の情報に促すことや事態の経過を示すことも自治体サイトの大切な役割ではないかと感じます。そうすることで訪問者に納得と安心感が与えられたなら、むしろ好感度アップというもので、ネガティブニュースへの反応は無視しない方がいいと思います。
「よく見られているページ」はよく見られていないのではないか
「よく見られているページ」をランキングで示している自治体サイトがあります。みなさんはこのランキングをどのように受け止めますか。
私は、よく見られてはいるだろうけれど、もしかしたら目的とする情報が見当たらなくてそれらしいページをうろうろした結果なのではないかと心配しています。「よく検索されるキーワード」というものもあって、これはまだ訪問者の能動的な行動が反映されている分いいような気がしますが、サイトの構成がわかりにくいから検索したという可能性も含みますので同じかなとも思います。
一方、静岡県のサイトに「みんなの「いいね!」ランキング」というものがあります。これは完璧に訪問者の能動的な行動のみの数だからいいのではないかと思いましたが、1位が「サイト内検索 検索結果」となっていてなんともうまくいかないものです。
しかし、このような取り組みを通じて訪問者の訪問意図を把握できるのであれば、「よく見られるページ」が本当の意味でよく見られている状況を作り上げるヒントになると思います。がんばりましょう。
「入札情報」はひっこめてみてはどうか
「入札情報」は自治体にとっては大切な情報でしょうけれど、一般の訪問者には必要ありません。目的とする情報を探している途中に必要のない小難しい入札情報が連続すると、訪問者は閲覧をあきらめます。
もちろん、住民の中には都道府県政、市政に目を光らせていたいのだという人もいて、入札情報も熟読したいという場合があるかもしれません。何よりも、自治体が入札情報を届けたい先の事業者の目にも情報が届かなければなりません。
でも大丈夫です。読みたい住民は多少ひっこんでいても探し出しますし、事業者もお金に直結する情報であればちゃんと見つけるものです。なので、多くの訪問者にとって閲覧をあきらめさせるような状態になっていないかを主軸に考える方がいいと思います。
「入札情報」をひっこめる方法として、情報分類の一階層目で「事業者の方へ」にまとめてしまうのはどうでしょう。一般の訪問者の目には留まらないけれど必要な人にとっては必要な情報だけがまとまっている状況をつくることができます。
それではトップページの配分の取り合いで庁内でもめますよということであれば、表示する数を決めることをおすすめします。そうすれば「入札情報」が新着情報を埋め尽くすという状況は避けられますし、訪問者もそういうものだと認識しやすくなるでしょう。
そのような場合の好例がありましたので紹介します。福岡市のトップページです。
福岡市のトップページの「新着情報」は、6つに分類したメニューごとに5つずつ、おそらく数を固定して表示するようにしているのだと思います。こうしておけば、訪問者は必要のないメニューを読み飛ばしたり、必要のあるメニューのところだけを読んだりすることができます。
「ああ、うちの自治体のサイトもこんな感じの作りだよ」と思ったウェブマスターがいるかどうかは知りませんが、福岡市のいいところはそれだけではありません。どのメニューのどの新着情報も、関係ないけどなんとなく読みたくなりませんか。私は毛嫌い(?)していた入札情報も熟読したくなりましたよ。
提案してきたように構成は大事ですが、やはり最後は記事そのものの魅力ということは意識しましょう。ひょっとしたら関係ない情報も読まれるかもしれないのですから。
「X」の発信はノリで行こう
各自治体、さまざまなSNS発信をする中で、「X」はどこの自治体でも利用しているようでした。見えない私にも比較的音声で情報を取得しやすいメディアであることから、各自治体の公式アカウントにアクセスしてみました。
私は「X」の発信はノリでやってほしいと思っています。もちろんふざけるのではなく真剣にやってほしいのですが、ある種のノリがあるといい。すでにご当地キャラなどをお持ちの自治体は、キャラにポストさせるのが手っ取り早いでしょう。たとえば、大阪府は「大阪府広報担当副知事もずやん」が関西弁でがんばっていました。方言もノリを生み出せていいです。
もう一つ、ノリに含んでいいかはわかりませんが、ターゲットをしぼって発信するのも手です。私の印象では、神戸市は「X」の利用者層にターゲットを絞って発信しているように感じました。利用者層のリズムにノリながら発信者側が言いたいことを言っていく、そんな雰囲気です。
すべてのSNS、すべてのメディアで発信する情報をすべての人に届けるのって難しいと思います。そのように努力したところ誰にも刺さらないという事態をよく目にします。
このように言うとアクセシビリティの観点からずれているんじゃないのと思われそうですが、いろいろなものを使っていろいろな方法でいろいろなタイミングで、届けなければいけない情報を少しずつ重ねながら、ここではあの人に、あっちではこの人にというイメージで発信していくといいと思います。
そうして訪問者が行き着く先はやはり公式ホームページ(Webサイト)です。だからちゃんとしておこう。たどり着いた人の目的が必ず達成しますように願いながら、今年も調査を終わります。