第117回 ミュージアムの音声ガイド

私は見えないくせに美術館や博物館によく行く。しかし、触って感じる美術館とか、学芸員の解説付き博物館とか、視覚障害者に特化したサービスを求めているわけではない。よく行くといっても、一人でふらふらと出かけるわけはなく、いつも同行者がいるので、館内をいっしょに歩きながら、同行者が「へぇ~。」とか「ふーん。」とか感心したときにだけ、「ナニナニ?」と首を突っ込みその理由を簡単に説明してもらい満足している。随分乏しい鑑賞と思われるかもしれないが、見える人たちだって、記憶に残っているのはそんな程度であろう。

だが、このように館内をふらふらしているのはそれなりに暇だ。同行者も鑑賞に夢中になっているときはよいが、ふと同行している見えない私の存在に気づいたときは、やはりそれなりに気まずい状態になるようだ。だから、私は必ず音声ガイドを借りるようにしている。同行者は見える人としてのペースで自由に鑑賞すればよいし、私は見えない人のペースで自由に音声ガイドを聴いていればよい。そのうちに、「へぇ~。」「ふーん。」という同行者の声が聞こえてきて、私が「ナニナニ?」と首を突っ込むときがくる。すると、「コレコレこういうものがあるんだ。」と同行者が目の前の作品なり、展示物なりの様子を伝えてくれる。大抵私は、音声ガイドでリアル館内より先を聴いているので、「それはね、(音声ガイドの解説によると)コレコレこうなのですよ。」と得意になって逆説明してあげるという裏ワザ鑑賞を楽しむのである。

ところが、最近この裏ワザ鑑賞が脅かされている。これまで、テンキーと十字キーで操作することが多かった音声ガイドが、タッチパネル化してきているようなのだ。今年に入って2つは出会った。貸し出しのスタッフの方は、見えない私が音声ガイドを借りると、まさにあなたのためにあるのですよという様子で大変ご機嫌に貸してくださるのだけれど、困り顔の私は

「これは私には操作できないということですよね。」

と言わざるを得ない。すると、

「同行の方がこの地図を見て番号を押してくださればよいので。」

と言うのである。

私はこのコラムでほしいものが買えたとか買えないとか、ああしたいけどできないとかこうしたらできたとか、わりと自分の欲求を主体にものを言ってきているので、信じてもらえないかもしれないが、自分の欲求を満たすことよりも前に、誰かの邪魔になりたくないという気持ちを強く持っている。だから、ミュージアムの音声ガイドの場合、解説の中身そのものを聴きたいというのは目的ではなく、ただただ同行者の邪魔になりませんようにという手段でしかないので上記のようなおかしな状況になってしまうのだけれど、私たちに操作できる状態にあることは、本来の目的にも私の手段にもかなうことなので、ぜひ気を遣っていただきたい。

今年に入って2つは出会ったという音声ガイドのうちの一つは、ゴールデンウィークのころに開催されていた国立化学博物館の『医は仁術』という特別展。音声ガイドの貸し出しコーナーで困った顔をしていたら、例の同行者に押してもらって……という説明をされたのだけれど、もっと困った顔をしていたら、非常に使いにくいものではあったのだけれどタッチパネルではないものを貸していただくことができた。こうした代替手段を用意するか、それこそiPod Touchでカレンダーが読めるのだから、VoiceOverか何かで番号をタッチすれば聴ける仕掛けにするのは何も難しくないだろうと思うのだけれどどうなのでしょう。