読書環境の変遷

2019年3月18日 掲載

前回は、「ユニバーサルワークスの成り立ち」の中で、見えない人が墨字を書くことについてお話しました。今回は見えない人が墨字を読む方の話題です。

指で読みますか?耳で読みますか?

墨字を読むことの代表格である読書についてです。見えない人の読書は大きく分けて2つの方法があります。目で読む代わりに、指と耳のどちらで読みますかということです。それぞれ点訳図書、音訳図書と呼ばれ、著作権法に基づいて製作され利用することができます。現在は、点訳、音訳ともに様々な形態があります。私の失明は、その形態が増えていく時期と重なったようで、読書環境に関しては便利さを加速度的に堪能している世代と言ってよいでしょう。

現在の私の読書環境

私は本を耳で読む方の人です。ですから、専ら音訳図書に頼っている状況です。『サピエ』という見えない人用のオンライン図書館から本を入手します。ここからダウンロードしたものを専用の機器で聞きます。専用のアプリケーションソフトを利用してPCでストリーミングで聞くこともあります。私の場合は、ダウンロードするのが一番携帯性に優れていますので、小説などを味わいたいときはダウンロードしてリラックスした体勢で読んでいます。雑誌などは、ストリーミングで必要なところだけざっと読んで終えることが多いです。仕事や勉強で精読したいときは、ストリーミングとテキストエディタを切り替えながら、PCで本を読みメモをとっています。

ぐっと便利になった読書環境

点訳・音訳図書はアナログからデジタルに形態が変わってきました。たとえば音訳図書は、テープ録音からDAISYというデジタル編集に変わっています。この変わり目に私は失明したようです。DAISY編集の最初の100タイトルみたいな目録をありがたく手にした記憶があります。DAISY編集は、読み上げ速度を調節できたり、栞がたくさんはさめたり、章や説、ページの頭出しができたりと大変便利です。見えなくても多読や速読のようなことができるし、あちこちに付箋をはさめるようなものだからです。それより何より、私はあのカセットテープの扱いから解放されたのが一番うれしい。貴重な音訳テープがビヨ~ンとなったときの冷や汗ときたら……。

精神を寸前のところで保てるのではないか

新刊の音訳を見えるみなさんと同じタイミングで読もうとなると、それはさすがに無理です。私が音訳が早いなと感じた村上春樹著『騎士団長殺し―第1部 顕れるイデア編―』は、発売が2017年2月24日で、テキストDAISY(合成音声)の完成が3月8日、音訳DAISY(朗読)の完成が4月11日となっていました。人気のある作家の新刊ということで、早く完成させようとがんばってくださったのだろうと想像します。通常はもっと時間がかかる印象です。

また、読みたい本が確実に音訳されるということではありませんので、その場合はリクエストをする必要があります。ですが、それなりに読書が好きな私がリクエストをしたことがないくらいですから、一般の読書であれば十分な蔵書数と言っていいと思います。

見えなくなってあれもこれも困りはしましたが、この先一生見えなくても(再生医療とかAIとかがんばって!)精神を寸前のところで保てるのではないかと思えるくらい助けられている読書環境のお話でした。