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アクセシビリティコラム

第11回 失業への道

アクセシビリティのプレゼンをした社長が、その場に居合わせた眼科医に、「全盲の視覚障害者で、自力でインターネットにアクセスしている人はいない と考えている。」と言われ、落胆していたことがあった。別に落胆することはない、そう考える方が自然ではないかと思う。

私は病気で失明した。
本人よりも家族の方が失明の事実を受け入れることに苦労していたようで、眼科医のよい評判を聞いては、主治医の紹介状を持って受診したものである。中には 視神経学の権威なる先生もいて、(その後に診察してくださった眼科医も「○○先生に診ていただいて治療の手立てがないようだと、もう無理です。」とおっ しゃるくらいだから、本当に権威なのだろうと思う。)その先生が言うのである。

「死のうなんて思ってはいけないよ。」と。

私はプッと噴き出しそうになるのをこらえて、そうかあ、失明したら普通は死のうと思うものなのかあなどと考えながら、「はい?。」としおら しくしてみせた。

すると、次に「ご飯はどうやって食べている?」と先生。「え?と、普通に“口”で食べていますが・・・。」と私が答えると、「そうではなく て、“箸”は使えるかね?」と先生。そこで、やっと質問の意図を理解した私は、「はいはい、“箸”はきちんと使えます。茶碗に口をつけずに最後の一粒まで 食べ終えることが、私の日課で、ゲームのようなものです。“箸”だけではなくて、“包丁”も使っていますよ。1日3食、自分でつくっています。見えていた ころより上手なくらいです、アハハ。」と言ってみせると、それはそれは驚いている様子だったので、掃除も洗濯もしているし、近ごろは、コンピュータもと余 計なことまで付け加えると、隣でカルテの記入をしていたもうひとりの先生が、「時々、患者さんに聞かれるんだよね、コンピュータをどんなふうに使うのかっ て。よかったら教えてくれる?」と聞いてきた。そのようなわけで、私の眼科のカルテには、治療方針の代わりに、『高知システム開発 PCTalker IBM ホームページリーダー』と、力強く書かれているはずである。

よく考えてみると、眼科医にとって視覚障害は身近であるかもしれないけれど、全盲の視覚障害は意外と遠いのかもしれない。

そうは言っても、眼科医である。一般の人々よりは、全盲の視覚障害者にだって興味や関心を示してくれているはずである。それでもこのレベル となると、一般、つまり世間的には音声ブラウザなど知られていないだろうし、「アクセシビリティ?なんじゃそりゃ?」ということになる。
マズイ!近々失業である。

でも、正直なところ、音声ブラウザの利用率はよくわからない。視覚障害者のコンピュータ利用についての統計はあるが、その利用がすべて音声 ブラウザであるということではない。あとは、音声ブラウザ出荷本数で算出する手もあるが、Web制作会社が結構買っているかもしれない。大体、私が個人的 に所属する盲人コミュニティ?で話題にしても、音声ブラウザを所持していることと、利用していることや習熟度はまったく別のお話である。
マズイ!失業への道がますます太く短くなってきた。
「でもねぇ、情報弱者は出してはいかんのだよ。」というのが私の必死な抵抗である。

ここに、最低でもひとりは自力でインターネットにアクセスしている視覚障害者がいるのである。

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